Development Stories 01

天体望遠鏡の軽量化に
限界まで挑戦!
新世代CFRPパイプ
「Kaleidφ」誕生秘話

これ以上の軽量化はムリ…と誰もが思った大口径の天体望遠鏡が、
新素材「エポキシフォームCFRP」を使うことで、驚愕の軽さに!!

株式会社トミーテックはタカラトミーグループにおいて、商品の企画開発から生産、販売、サービスに至るまで一貫して行う総合ホビーメーカーです。同社の商品のひとつとして1991年に発売した天体望遠鏡のBORGは「軽量かつ高性能」をコンセプトに改良を重ね、ラインナップを増やしてきました。大口径の天体望遠鏡は本来なら重く取り回しが悪いのですが、BORGは剛性を維持しつつも軽さを限界まで追求し、天文ファンの人気を博しました。素材レベルでは2016年にカーボン(CFRP)パイプを採用されており、これ以上の軽量化は厳しいとお考えでしたが、スーパーレジン工業との出会いで事態は大きく変わりました。果たしてどんな提案があり、どのように開発は進んでいったのでしょうか?トミーテック BORG企画開発チームの方々にお話しをお伺いしました。

天体望遠鏡「BORG」の特徴を教えてください。
BORGは、「他社製の天体望遠鏡よりも軽い」というのがブランドコンセプトの1つとなっている天体望遠鏡です。
レンズが入っている鏡筒と呼ばれる本体は、口径が大きければ大きいほどたくさんの光を集め、暗い天体を観ることができるのですが、そのぶん重さも増してしまいます。鏡筒が重ければそれを支える架台・三脚も頑丈かつ重くなるため、移動観測や機材セッティング時の持ち運びも重労働です。また、天体は地球の自転にあわせて移動して見えるので、手動もしくは電動で望遠鏡を動かす必要があるのですが、鏡筒が重いと可動部の負荷が増えるため、その対策も大がかりになります。
自宅や観測所のように据え置きのまま使うなら問題になりにくい鏡筒の重さですが、逆に言えば軽くすることで持ち運びや利便性を高めることも可能です。
このように軽量化という選択肢がありながらも、費用対効果や加工のしやすさから鏡筒にアルミニウムを採用しているメーカーがほとんどです。
そんな業界の中で、BORGは軽くて強いカーボン(CFRP)パイプを鏡筒に採用した天体望遠鏡を開発し、多くの天文ファンに受け入れられてきました。
新製品開発に向けての課題はありましたか?
従来品は、剛性を維持しつつも限界まで軽くした最高品質のカーボン(CFRP)パイプを採用していました。そして、軽量化のアイデアはもはや出尽くしていて、やるべきことはすべてやった、という思いが社内には漂っていたのです。BORGの使命である軽量化への追求は限界を迎え、従来品以上の軽量化は実現不可能だと企画開発チームのメンバー全員が感じていました。
スーパーレジン工業との出会いは?
軽さを追求すると剛性が下がる。もうこれ以上の軽量化は望めないだろうと思っていたところに、スーパーレジン工業の営業担当の鈴木さんとの出会いがありました。鈴木さんの話によると、「エポキシフォームCFRPという、CFRPの複合素材を使えば、従来のものより軽量化が見込めます。しかも剛性も落ちません。」という、我々の考えを覆すような内容でした。さっそくエポキシフォームCFRPのサンプルを見せていただく流れになりました。
BORG軽量化へのさらなる挑戦を決めた経緯は?
鈴木さんが持ってきたサンプルの平板を見た時は、雷に打たれたような感じでしたね。カーボンとカーボンの薄い板の間にエポキシフォームというスポンジのようなものが挟まっている薄い素材で、持ってみるとエッ!というような軽さ。多少はしなるだろうと力いっぱい曲げようとしても、1センチぐらいの厚みの鉄の板のようにビクともしないのです。こんなに薄いもので剛性もあって予想を超える軽さで…!これはすごいものが作れるかも!鏡筒のパイプとして採用できるかも!素材だけでわくわくしたのは久々の感覚でした。他社さんでは、「軽量化は不可能ですが従来品より安くできます」といった提案はありましたが、「剛性を落とさず、さらに軽くしてよいものにしましょう」という提案はスーパーレジン工業さんだけでした。BORGの長年の開発経験の中で、軽量化の限界というかボーダーラインを引いていたのは他でもない、内部の私たちだったのです。さらなる軽量化の可能性へ向けて開発がスタートしました。
初取引のスーパーレジン工業による、新素材のエポキシフォームCFRP。
不安はありませんでしたか?
実は当初、鈴木さんからご提案いただいたときに、かなり懐疑的であったのは確かです。
私たち企画開発チームからの要望は、パイプ状のエポキシフォームCFRPを製作し、従来品よりも軽量で同等の剛性を実現することですが、鈴木さん曰くスーパーレジン工業さんでは、平板ではないパイプ状のエポキシフォームCFRPについてはゼロベースの技術開発とのこと。こちらとしては試作品を拝見するまでは、たわみの発生や表面の凹凸、精度のバラツキなど不安材料がいくつかあることをお話ししました。その際、「絶対にできるので、とにかくやってみます。」と前向きなお返事をいただけたことで、我々としても踏ん切りがついたように思います。
「良い製品をなんとしても作る」というスーパーレジン工業さんの技術開発に対するスタンスは素晴らしく、感銘を受けました。これまでJAXAの人工衛星の構造体やドローンなど、厳しい条件のハイスペックな部材の開発に携わっている会社だからこその取り組み方なのかもしれません。何度も試作と失敗を繰り返す中で少しずつ課題が解決し、道が開けてきた頃には不安が安心感に変わりつつありました。
開発段階での課題や問題点はどのようにクリアしていきましたか?
一番悩まされたのは鏡筒の表面仕上げで、スーパーレジン工業さんはすぐに発生原因を特定して、解決するためのアイデアと方法論をたくさん提案してくれました。エンドユーザー向けの製品は、軽さや剛性といったスペックだけではなく、鏡筒のデザインや見栄えも重要な要素になります。そこは鈴木さんをはじめスーパーレジン工業さんに苦労をかけた部分だと思います。
ほかにも、従来はカーボンパイプの仕上げ工程でUV塗装をしていましたが、今回は行っておりません。スーパーレジン工業さんからのご提案で、本来耐候性を持たせるために必要だったUV塗装の機能を、表層素材に独自開発の耐候性プリプレグを採用することで省けてしまったのです。これはパイプの更なる軽量化にもつながりました。こんなチャレンジも、他社ではなしえません。すさまじいマテリアル開発能力というか、スーパーレジン工業さんだから実現できたことだと思っています。
軽量化の成果についてお聞かせください
鈴木さんから初めてサンプルを見せていただいたのは2020年7月。そしていよいよ大口径でありながら、天体望遠鏡本体の重さが自社同等品に比べ約2/3を実現した新製品を発売します。自社製品との比較でも軽いのですが、他社製の天体望遠鏡の重さを知っている天文ファンはもちろん、はじめて天体望遠鏡を触るような方も、見た目と重さのギャップに驚くと思います。このクラスがここまで軽くなるのは、スーパーレジン工業さんの技術なしでは実現できなかったのではないでしょうか。
スーパーレジン工業の仕事を振り返ってみていかがでしたか?
開発過程でのやり取りは色々な苦労もありましたが、全体を通してみるとスーパーレジン工業さんにお任せしておけば、我々の負担を最小限に抑えた素材開発が行えるといったことが言えると思います。
現在は試作から量産に移行していますが、スーパーレジン工業さんは、パーツ1つ1つにナンバリングがされていて、製造工程の履歴管理をしっかりされています。これにより製品に何らかの不具合があった場合もどの過程で問題が起きたのかすぐにわかります。試作段階でのトラブルも原因特定が早く、着実に解決できました。コンシューマー向け製品の部材メーカーでは、トレーサビリティをここまでしっかり管理されている会社はほとんどないので、人工衛星の部品を開発している会社は違う、頼りになると、社内でもそんな話題が出たりします。次もなんらかの形で新しいパーツだとか新製品を依頼する時はスーパーレジン工業さんに頼みたい、そんな印象を持っています。
また今回、BORGで採用したエポキシフォームCFRPパイプについて、スーパーレジン工業さんが「新世代CFRPパイプ Kaleidφ」という形で商品化されるという話を聞きました。新規採用第一号として胸を張りたいと思っています。
最後にひとこと
今回、スーパーレジン工業さんに出会っていなければ、従来のカーボンパイプでいいじゃないか、となっていた可能性が高かったと思います。これまで鏡筒の軽量化についてはできる限りのことをやりきったので、次は鏡筒以外の部品をエポキシフォームCFRPにしてどこまで軽くなるかを確かめてみたいという期待も膨らみます。鈴木さんからも、「新しいチャレンジしましょう!」と言ってもらっているので、今からワクワクしています。
BORGは純国産、メイドインジャパンの素材を使って、最高品質の天体望遠鏡開発に積極的に取り組んでいくので、これからも良いパートナーとしてともに発展していけたらうれしいです。
また、人工衛星「はやぶさ2」の構造体を手掛けたスーパーレジン工業さんの技術がBORGにも生かされている、天文ファンの皆さんはその事実を知ると非常に胸が熱くなるのではないかと思います。私たちBORG企画開発チームも、夢を感じる仕事ができました。ありがとうございました。

会社プロフィール

株式会社トミーテック

タカラトミーグループで唯一、国内工場での生産ラインを持つホビーメーカー。企画、設計、生産、管理、販売、サービスに至るまで一貫したシステムで日本製の高い精度を保った製品を仕上げています。新しいことをどんどん取り入れチャレンジする社風で、商品開発にも積極的です。

所在地 本社
〒321-0202 栃木県下都賀郡壬生町おもちゃのまち3-3-20

東京オフィス
〒124-0012 東京都葛飾区立石3-19-3
設立 1996年3月19日
資本金 1億円
Webサイト https://www.tomytec.co.jp/